Characterizing human odorant signals: insights from insect semiochemistry and in silico modellingPhil., Ashish Radadiya, John A. Pickett, 2020, Trans. R. Soc. B37520190263 http://doi.org/10.1098/rstb.2019.0263 (2)

https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rstb.2019.0263#d3e340

前回の続き

2. Capturing semiochemicals from insects 昆虫からのセミオケミカルの捕獲

方法 説明
溶媒法 ヒトや他の脊椎動物のフェロモンの研究では、多くの溶媒が刺激を引き起こし、直接適用できないかもしれません(ヒトの皮膚のサンプリングでは可能)が、昆虫は溶媒と耐性が高く、外傷なしで炭化水素溶媒を受け入れることができます(節間領域など)。
高分子吸収剤① 逆相液体クロマトグラフィー用[5]など、ヒトの皮膚の揮発性物質を直接抽出し、分析のために溶媒または不活性ガスの流れによって脱着された揮発性物質で溶出できます。
高分子吸収剤① 多孔質ポリマーへのエントレインメント・固相マイクロ抽出(SPME)。ガスクロマトグラフ(GC)分析へ直接インジェクション可能な吸収性ポリマー繊維からできたシリンジデバイスが、フェロモン放出する昆虫のヘッドスペースでセミオケミカルを吸着し、昆虫の上空に放出されるフェロモン組成を正確に測定できます[6]。ヘッドスペースの比較的小さな部分がサンプリングされるという欠点があり、サンプルは直接GC装置に溶出されるため、たとえば化学組成や生物活性の複数の分析ができません[7]。
高分子吸収剤③ 最も成功したアプローチ。生体サンプルの上から空気を取り込み(図3)、多孔質ポリマーを通して空気を吸引し、精製溶媒で溶出して、複数のタイプの分析用の液体サンプルを取得することです[6]。身体の部分を選択的にポリエステルなどバッグを使用しサンプリングし、外来の揮発性物質を除外します。
  • 溶媒法例;ミツバチの採餌と群れ行動に関与するフェロモン採取は、閉鎖型分泌型Nasonov腺から、少量の不活性溶媒(図1)注入で達成されました[2]。
  • 吸着法例;病原性マラリアを媒介する蚊の誘引が増加した、短鎖オキソ置換アルカンのグループが特定されました(図4)[9]。
  • ただし、EAGや化学分析を導入したGC分析では、Porapak QやTenax TAなどの多孔性ポリマー(図3)エントレインメントが採用されています[9]。

3. Capturing semiochemicals from the insect environment, including on the host 宿主を含む昆虫環境からセミオケミカルの最近の知見

  • 宿主上にいるときに放出される性フェロモンは他のフェロモン応答との相乗効果により、幼虫のための食物マーカーとなっていることが指摘されています[15、16]。
  • 宿主の植物を食べている昆虫によるセミオケミカルは、忌避効果として働き、宿主をめぐる競争を回避していることが指摘されている
  • 特に植物宿主とする昆虫について最近レビューされており[17]、脊椎動物宿主についても、特に摂食ストレスと非宿主関連忌避剤との関係の点で議論されている[18,19]
  • ヒトや他の脊椎動物のストレス下のセミオケミカルの研究により、病原体または寄生虫の発達のマーカーを特定できることであり[9]、これは早期診断に役立つ可能性があります。

4. Exploitation of haematophagous insects 吸血性の昆虫、感染症を媒介する昆虫に関する知見

コンテキストとして行動につながるセミオケミカル

  • 脊椎動物の寄生虫~吸血性の昆虫は、セミオケミカル認識によってより良い宿主を探すだけでなく、適切でない近縁の動物を回避することもできます。この宿主由来セミオケミカル混合物に、回避・反発を引き起こす特定の化合物の存在や相対的レベルを検出する現象は、昆虫の複合的なコンテキストに基づく忌避の例です[18,19]。
  • サハラ以南のアフリカで動物のトリパノソーマ症またはナガナを媒介するツェツェバエ、Glossina種は、家畜の牛には誘引されるが、非ホストだがウシ科のKobus ellipsiprymnus defassaを回避することが知られています。セミオケミカルである、ペンタン酸、2-メトキシフェノール、6-プロピルテトラヒドロ-2H-2-オン、(E)-6,10-ジメチルウンデカ-5,9-ジエン-2-オン、が回避に影響を与えると特定され、野原の牛のトリパノソーマ感染からの保護に使用されます[20]。
  • 蚊の忌避剤の「ゴールドスタンダード」であるDEETとは別のアプローチで、ヒトの腕のセミオケミカルをもとにマラリアを媒介するハマダラカガンビエを含む蚊の忌避剤開発につながる可能性があります[21]。
  • 家畜の種内[10]やヒト個体間のセミオケミストリーにおける変動は、複合的なコンテキストに基づく忌避を引き起こします[8]。

ヒトのセミオケミカル研究のツールとしての寄生~吸血性の昆虫

  • 月経周期によるヒトの生理変化が黄熱病蚊、Aedes aegyptiに知覚されいる行動的な知見があります(JG Logan and CM Woodcock 2000、未発表)。
  • ヒトのセミオケミカルの神経生理学的検出のための直接的な非侵襲的分子ツールの開発が待たれている一方で、吸血性昆虫の触角活動をEAGなどでライブ記録し、ヒトのセミオケミカルを検出できることに関心がもたれています[22]。
  • ヒトのセミオケミカルと吸血昆虫との密接な関係から、ヒトのフェロモンがこれらの昆虫の嗅覚認識によって検出される可能性が示唆されており、D. melanogasterショウジョウバエの「空の」ニューロンにほかの昆虫の嗅覚受容体を異種発現させることで嗅覚タンパク質をファンクショナルに発現させる[23]ことも報告されており、昆虫のEAGベースでヒトのフェロモン成分の同定できる可能性があります。
  • 最終的には、異種発現系のシステム上で発現したヒトの嗅覚受容体タンパク質をEAGなどによりヒトのセミオケミストリーを直接同定することが可能になると考えられます(昆虫と哺乳動物の嗅覚系の基本的な違いは§5aを参照)

(個人的コメント)

  • 将来的な俯瞰についても言及されているので興味深い
  • contextual inhibition (of potential host characteristics) =複合的なコンテキストに基づく忌避;特定の化合物種による誘引/忌避ではなく複数の化合物の混合物のバランスに基づき誘引/忌避の行動に結び付く現象
  • ショウジョウバエの亜種での餌の変化と誘引行動の変化と嗅覚受容体ファミリーの変容をディスカッションしていた論文があったが、言及してほしい。受容体レベルでの変化なのか、発現制御のレベルなのか、神経回路のレベルの変化なのか関心がもたれる。またこれが後天的にどの程度変容するのか(先天的なフレキシビリティがどの程度設計されているのか?)関心がもたれる。