Minute Impurities Contribute Significantly to Olfactory Receptor Ligand Studies: Tales from Testing the Vibration Theory, M Paoli, D Münch, A Haase, E Skoulakis, L Turin… – eNeuro, 2017

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doi.org
振動仮説(wikipedia)

(本論文は一度取り上げたことのある2017の論文。少し補足して再投稿してみる)

Abstract

重水素化した匂い物質による行動および生理学的研究を行い、匂い物質受容体活性化の振動仮説を検討した。結果は振動仮説を混乱するものであった。ここでは、重水素化化合物の匂い刺激によるショウジョウバエ触角葉のカルシウムイメージングを用いて匂い受容体の活性化を観測した。我々は、特定の受容体からの入力に対応する触角葉の1つの領域の特異的活性化を見出した。しかし詳細な分析(GCによる純度物分析)の結果、ベンズアルデヒド-d5の化学サンプル中の0.0006%酢酸エチルの不純物は、dOr42bを発現するショウジョウバエ嗅覚受容体細胞におけるかなりの匂い誘発応答に完全に関与することを発見した。重水素化および非重水素化ベンズアルデヒドの応答比較において、実験装置内でガスクロマトグラフィー精製を行わない場合、微量不純物がORN応答に相違を生じさせうることが示唆され、 dOr42bは振動感受性受容体であるという事実はない(嗅覚受容体の匂い物質の受容における筆者らの提案してきた振動仮説をサポートする結果ではなかった)ことが示された。本結果は、学術研究等で受容体選択性試験に用いられる化合物の使用に関する広範な問題を指摘し、将来の研究においてどのように限界を克服できるかを示唆している。

Memo

Hanna Schnell / the Galizia lab 結構昆虫の嗅覚研究では大家。

L. Turinの振動仮説は、Back&Axel以降否定される流れにある。とはいってもTurinが匂いの科学をけん引してきたことも、匂いの大家であることも否定できるものではないと考えている。

嗅覚受容体の匂い物質の包接挙動はタンパク質~ホストゲスト科学が明らかにすると考えている。包接にかかわる生体分子(嗅覚受容たんぱく質以外の生体分子)にも不明確な部分もまだ残ってはいるし、物理化学理論・シュミレーション技術には不完全である。

今回は受容体レベルでの話。嗅覚受容体の匂い物質の包接は匂いの知覚の最初段である。匂いは脳で知覚され、匂いの言語化、イメージ化には大脳の活発な動きが関わっていると考えられている。匂いの科学には香料化学~分析化学、ゲノミクス、タンパク質~ホストゲスト科学、多変量解析、脳科学が必要であろう。

匂いの理論は嗅覚受容体の遺伝子発見まで紆余曲折してきた。このような時代に、匂いの科学からある程度の共感を得ていたことは何らかの科学のヒントを含んでいるのかもしれない。振動仮説という着眼には関心がある。

(ここまで)