マルコフ状態モデル(MSM)
分子動力学(MD)シミュレーションにおける運動過程(タンパク質ダイナミクス)=離散時間間隔(ラグタイム)でのコンフォメーション状態間の一連のマルコフ遷移からなる
今回提案のqMSM
quasi-Markov State Models (qMSMs)準マルコフ状態モデル
- 理想的なシュミレーション;状態間の遷移が真のマルコフになるように、十分に長い遅延時間でマスター方程式が構築
- 実際には;遷移の頻度を推定する際のMDシミュレーションの長さが比較的短いため、ラグタイムは制約されている
MSMで必要なモデルよりも5〜10倍短いMDシミュレーションを使用したことを示せた
- 単純な速度論モデル
- アラニンジペプチド
- WWドメイン
J. Chem. Phys. 153, 014105 (2020)
構造生物学的背景
タンパク質立体配座のダイナミクス;生物学的プロセスで重要な役割を果たす
- 誤った折りたたみ・凝集
- タンパク質とリガンドの認識
- 多数の機能的な立体配座の変化
MD@HPC的な背景
分子動力学(MD)シミュレーション;原子レベルで動力学をモデル化
- 生物学的に関連するプロセスはミリ秒以上の時間スケールで発生することが多い
- 大きなタンパク質の個々のMDシミュレーションは通常、マイクロ秒以下の時間スケールに制限
- 並列計算機(HPC)は長時間MDよりも短時間MDの実行に適している
射影演算子法・GMEでMSMダイナミズム解釈において期待できること
projection operator (射影演算子法)に基づいたgeneralized master equation (一般化マスター方程式・GME) frameworkアプローチ28,29
- 特定の状態の選択の非マルコフダイナミクスを正確にエンコード
- 正確で効率的なダイナミクスのシミュレーションを実現
- 直感的な解釈が可能
- 長いMSMラグタイムに関連する高い計算コストを回避
ダイナミクスが存在するためにメモリカーネルを直接計算することは伝統的に難しい問題とされてきましたが、最近の進歩は、システムの予測されないダイナミクスから直接メモリカーネルを計算する方法を示しています42–48。複雑なシステムのダイナミクスに対して古典力場的に49,50、量子力場的に46,51–54、正確で効率的な計算方法の開発を可能となり、タンパク質やその他の生体分子の古典的なダイナミクス導出で同様の利点が得られる可能性を示しました。
遅いタンパク質運動のGMEベースの説明が、その長い時間スケールのダイナミクスを研究するための効率的な手段を提供することを期待できます。
自学自習.1;構造生物学的背景
(参考)「生体分子の機能: 何かが動く」
動くもの | 機能 | シミュレーション手法 |
---|---|---|
電子 | 電子移動,光励起 | 電子状態計算(QM) |
プロトン | プロトン移動,プロトン化 | QM,全原子MD |
原子 | 構造変化など | 全原子MD |
低分子 | リガンド結合,膜輸送 | 全原子MD |
側鎖 | 分子(低分子,高分子)結合 | 全原子MD |
ドメイン | 構造変化,分子モーター | 全原子,疎視化MD |
サブユニット | 超分子システム | 全原子,疎視化MD |
蛋白質全体 | 多蛋白質システム | 疎視化MD |
分子濃度 | 細胞機能 | システム生物学 |
細胞 | 血流 | 流体力学,構造力学 |
組織 | 臓器運動 | 流体力学,構造力学 |
ref; 生命系の分子動力学シミュレーション, p.11
構造生物学にとってのMD;状態(コンフォメーションとダイナミクス)が多数設定されていると、直感的な解釈を妨げ、生物学的洞察を覆い隠します27。対照的に、少数の状態のみを使用して構築されたMSMは理解と解釈を容易にしますが、ダイナミクスのマルコフ記述を可能にするラグタイムに到達するには、非常に長い個々のシミュレーションが必要。
自学自習.2;物理化学(速度論)的な理論背景
自由エネルギーによる分子運動、状態遷移図の評価をしたい。metastable conformational states (free energy minima) 準安定コンフォメーションステート(自由エネルギー曲面上の鞍点)という理解。
自由エネルギーとは(転載)
- U(internal energy)
- H(enthalpy)
- F(Helmholtz free energy)
- G(Gibbs free energy)
(potentials) | - | -TS |
---|---|---|
- | U(internal energy) | F(Helmholtz free energy) |
+PV | H(enthalpy) | G(Gibbs free energy) |
ref; hyperphysics.phy-astr.gsu.edu
自学自習.3;離散時間間隔(ラグタイム)への理解(勉強中)
物理化学(速度論)的な理解 → 準安定構造の緩和時間、準安定構造間の遷移速度(速度論的・速度定数)
統計熱力学的な理解 → 熱浴、ゆらぎ
MD的な理解 → (もう少しクリティカルな表現でまとめる)
- 近年、マルコフ状態モデル(MSM)を論拠として、短時間MDシミュレーションに含まれる情報を組み合わせることにより、長時間MDをモデル化し、時間スケールのギャップを埋める一般的なアプローチが開発されている。1–24
- 状態間の遷移が無記憶またはマルコフになるようにラグタイムが十分に長くなければならない
- 遷移の記憶は、主に各状態内の動的緩和によって決定されます。
- 実際には、いくつかの状態しかない複雑なシステムのマルコフモデルを取得することは困難です。
- 計算上実行可能なラグタイムは、これらの遷移の頻度を推定するために利用できるMDシミュレーションの長さに制限される
- 粗視化MDとしての体系化
ref;連載「分子系における遷移・反応レートの計算法についてII」(藤崎弘士)
自学自習.4;その他の事項(勉強中)
- WWドメイン
- ノンマルコフな(non-Markovian)軌道解析法
- projection operator formalism,28,29 射影演算子形式
- Liouville方程式
- 森-Zwanzigの射影演算子法55—60
- マスター方程式の構築 master equation (統計熱力学)
- 一般化されたマスター方程式 generalized master equation formalism
- memory kernel
- discrete time intervals, i.e., lag times, τT.
(たぶん続く)